首が腫れている!? - 甲状腺機能低下症について -

はじめに

甲状腺のご病気についての第2弾のブログになります。今回は「甲状腺ホルモンの作用が低下する病気」に関する内容となります。第１弾の「甲状腺中毒症」でご説明した症状とは逆の症状が現れることが特徴です。（甲状腺中毒症については➡️こちらのブログ）

※本ブログは当院で発行している院内報に寄稿した医療コラムに加筆してお届けいたします。

甲状腺ホルモンの調整について

前回は甲状腺の解剖学的な場所についてご説明しました。今回は甲状腺ホルモンがどのように調整をされているのかについてです。下のイラストにあるように脳からの厳密な指令のもとで甲状腺ホルモンの産生・分泌を行なっています。

このイラストに沿って見ていきましょう。まず、A. 甲状腺ホルモンにはサイロキシン（T４）とトリヨードサイロニン（T３）の2種類があります。これら２つのホルモンはB. 下垂体前葉という頭の中心部分から分泌される甲状腺刺激ホルモン（TSH）によって調整されています。さらに、このTSHはC. 視床下部という脳の別の部位から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン（TRH）というホルモンによって調整されます。ホルモンの調整は別のホルモンが行なっているということになりますね。

略語

・T4: Thyroxine

・T3: 3,5,3’-triiodothyronine

・TSH: Thyroid-stimulating hormone

・TRH: Thyrotropin-releasing hormone

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの作用が低下する病気のことで原因としてA, B, C, Dのどこかに異常を来している状態です。

このように一口に甲状腺機能低下症と言っても様々な原因があるため、きちんとした診断が重要となります。今回は最も頻度の高い橋本病について見ていきましょう。

橋本病

橋本病は甲状腺機能低下症を来たす病気の一つで慢性甲状腺炎とも呼ばれます。日本人の橋本策（ハシモト　ハカル）医師が初めて報告したため、英語でもHashimoto's diseaseやHashimoto's thyroiditisと呼びます。病気の原因は不明ですが自己免疫性疾患の一つと考えられています。女性に多く発症し、甲状腺が全体的に大きく腫れます。以下に示すような症状が見られますが、甲状腺が腫れる以外に全く症状が出ないことも多い病気です。

現れる症状

これらの症状がみられた場合には早めに検査をして橋本病かどうかを調べる必要があります。元気がない、考えがまとまらない、話し方や言葉がゆっくりになるといった症状からうつ病に間違えられてしまうこともあります。また、甲状腺ホルモンの低下によって不妊や流産の原因になることがあります。

診断は甲状腺中毒症と同じく、血液検査と甲状腺超音波検査によって行います。

詳しい検査や治療に関しては➡️こちらをご覧ください。

甲状腺が腫れてしまうバセドウ病や無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎といった甲状腺中毒症と比較すると逆の症状と共通して見られる症状があります。また、橋本病の経過中に無痛性甲状腺炎を発症し、甲状腺中毒症状が見られることもあります。

まとめ

甲状腺ホルモンの作用が低下している甲状腺機能低下症について解説いたしました。その中でも特に頻度の高い橋本病ですが、甲状腺は腫れるものの症状が全く無くお薬も必要としない方がほとんどです。橋本病の約10％の患者様にだるさや体重増加、寒がり、むくみ、便秘といった症状が見られ治療が必要となります。また、橋本病の方で炎症が強く出てしまった場合に、一時的に甲状腺中毒症（橋本病とは逆の症状）を来たすこともあり経過観察が重要です。女性に多いご病気ですので、妊娠出産を考えている場合には、明らかにホルモンが低下する前の状態（潜在性甲状腺機能低下）でも不妊や流産の原因なることがありますので、早めに甲状腺ホルモン剤を用いて治療を行うことがあります。

気になる症状がある場合にはお気軽にご相談下さい。